深海は「地球最後のフロンティア」とも呼ばれる。数値や専門用語、最新の探査技術をもとに、極限環境に生きる生命のしくみを見つめ直そう。
水深が10m深くなるごとに、水圧はおよそ1気圧ずつ増えていく。水深1万mのマリアナ海溝では約1000気圧、指先に大型車が何台も乗るほどの力がかかる計算だ。深海生物は体液の成分を調整するなどして、この極限の高圧環境に適応している。
熱水噴出孔や冷水湧出帯では、硫化水素やメタンを化学的に酸化してエネルギーを得る化学合成細菌が一次生産者となる。チューブワームなどはこの細菌を体内に共生させ、太陽エネルギーに依存しない独立した生態系を築く。これは地球外生命の可能性を考える手がかりとしても注目されている。
日本の有人潜水調査船「しんかい6500」は水深6500mまで潜航でき、世界有数の潜航深度を誇る。近年は無人探査機(ROV)や自律型無人探査機(AUV)が広く使われ、人が行けない超深海の観測や試料採取を可能にしている。水深1万m超の超深海帯(ハーダル帯)の調査も進みつつある。
深海は地球表面の大部分を占めながら、その多くが未調査で、新種が次々に発見されている。一方で、深海底鉱物資源の採掘(深海採鉱)や、深海にまで達するマイクロプラスチック汚染が新たな脅威となっている。生態系の回復が極めて遅い深海では、開発と保全のバランスをどう取るかが世界的な課題だ。