森は木材を生み出すだけでなく、水や大気、土壌を守る多くの機能をもっている。日本の森林の特徴と、里山管理をめぐる現代的な課題を見ていこう。
森林は、木材の供給だけでなく「生態系サービス」と呼ばれる多様な恩恵を人間社会にもたらしている。降った雨を土壌にたくわえてゆっくり河川に流す「水源涵養(すいげんかんよう)」機能、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し固定する機能、根が土をつなぎとめて土砂の流出や崩壊を防ぐ土壌保全機能などがその代表例だ。これらは経済的な価値に換算されることもあり、森林が果たす役割の大きさを示している。
かつて薪炭林として定期的に伐採・下草刈りが行われてきた里山は、燃料革命以降、利用されなくなり管理が放棄される例が増えている。人手が入らなくなった里山は照葉樹林化・常緑化が進んで林床が暗くなり、日当たりを好む植物や、それに依存する昆虫・鳥類が減少することがある。管理放棄は一見「自然に還る」ように見えるが、里山特有の生物多様性にとってはむしろマイナスに働く場合がある点が重要だ。
日本の国土に占める森林の割合(森林率)は約7割にのぼり、先進国の中でも際立って高い水準にある。この背景には、急峻な地形が多く農地化・都市化されにくかったこと、戦後の拡大造林政策でスギ・ヒノキの人工林が広く植えられたことなどがある。人工林は木材資源であると同時に、手入れ(間伐など)が不足すると土壌保全や生物多様性の面で課題を抱えることも指摘されている。
近年、ニホンジカの個体数が全国的に増加し、若木の樹皮や下草を食べつくす「食害」が森林の更新や生物多様性に深刻な影響を与えている。シカが下層植生を食べつくすと林床が裸地化し、土壌流出や希少な植物の減少につながることがある。増加の背景には、天敵であるオオカミの絶滅、狩猟者の減少・高齢化、暖冬による冬季死亡率の低下などが指摘されており、個体数管理や防護柵の設置など対策が進められている。